「ほしのうた」をミクに歌わせるまで(その4・歌い出しの「さ」)

 ちょっと間が開きましたが、全体の方針について大体書き終わりましたので、これからは個々の部分の調整について具体的に書いていきたいと思います。

 なお、先日Ver.1.1をアップしましたので、今後は原則としてVer.1.1に基づいて説明したいと思います。


 まず最初に、まさに一番最初の音、歌い出しの「さ」について。

 個人的に、歌い出しというのは非常に重要だと思ってます。歌の後半は調子も乗ってきて、それほど上手でなくてもそれなりに聴けるのですが、歌い出しは、聴いている方もまだ耳が慣れていないので注意深く聴きますし、伴奏の音も比較的小さいので歌の細かい調子まで聞こえてしまうため、上手下手がよく分かってしまいます。ですから、今回も最初の部分の調整には特に気を遣いました。


 さて、最初の「さ」についてですが、実はこれ非常に難儀しました。あゆこよバージョンを聞いていただいても分かるように、歌い出しの「さ」は、子音の「s」をやや長めに発音しています。
 しかし、ミクの「さ」は、子音部分が短く鋭いため、そのままでは「s」を長めに発音するのが困難です。
 この「s」を延ばすためにまず最初に考えたのが、VELの調整。VELは子音を調整するパラメータで、高くすると子音部が短く、低くすると子音部が長くなります。そこでこのVELを下げることで、子音sの部分を延ばそうと考えたわけです(なお、余談ですが、今回、VELを変更しながら波形を確認していて分かったことで、VELを低くして子音が長くなる場合、後ろ(子音の最後の位置)は変わらず、頭の部分が前にずれていくようです)。しかし、この方法では十分に長くはなりませんでした。VELの調整程度では、大きな変化は望めないようです。


 次に考えた方法が、BREパラメータを高くする方法。BREは値を上げることでノイズ的な高音部の要素が増え、あたかもブレスが多く含まれるような音になるというパラメータです。
 これを上げて試してみたのですが、残念ながらそもそも音がある部分にしかノイズは乗らず(当然といえば当然ですが(^^;)、無音部分は無音のままのため、子音を延ばすことには使えませんでした。


 そして最後に考えついたのが、今回実際に使っている、ブレス音をかぶせる方法です。VOCALOIDには、五十音の発音のほかにブレス音(息を吸う音)が5種類登録されています。ブレス音は息を吸う音であり、s音は吐く音ですから、本来その性格はまったく逆ですが、いずれも擦れるような音であるという点では一致しているので、これを使って、「s」っぽい音を出そうというわけです。

 ブレス音は、それ専用のトラックを作り、その上に配置します。VOCALOIDは1トラック1音で和音は発声できません。ブレスといえど音なので、重ねて発声するためには別トラックにする必要があるわけです。位置としては、「さ」の発音のちょっと前(16分音符1個分)から始まり、「さ」に少しかかる(32分音符1個分)くらいに調整しました。ちなみに、使った発音は「br2」。聞き比べてみて、これが一番「s」に近い気がしたので。なお、ブレスの音量は、DYNを15から90くらいの右上がりの直線で設定しています。そもそもブレスは吸う音のため右下がりの音なので、少しでも吐く音に近づけるための調整です。

 こうして出来たのが今回の声。面倒なことをした割に大きな効果があったかと言われると微妙ですが(^^; 自分としてはそれなりに満足しています。